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2013年7月27日 (土)

わりなき恋

岸恵子さんの話題作、『わりなき恋』を、ようやく読み終えた。70代の女性の恋を赤裸々に描いた作品としてベストセラーになっていたのは知っていたが、何となく抵抗があって、敬遠していたのだが、新聞広告で目についたの「70代こそ女ざかり」というキャッチコピーについつられて買ってしまった。

徹頭徹尾、ロマンンチックな恋愛小説だ。もう少しで70代にさしかかるヒロイン笙子と10歳年下の男性との6年間にわたる恋の軌跡を追ったものだが、岸さん自身をモデルにしたかのような笙子は、夫を飛行機事故で亡くした未亡人という設定だが、若いころから世界を飛び回って社会派の映像作品を製作しているドキュメンタリー作家であり、相手の九鬼も、しょっちゅう海外に出張している大手企業のビジネスマン。いかにも理想的なカップルでありしかもヒロインの笙子は、高齢ながら、すらりとした知的美人として描かれている。もし、これを映画にするなら、演じるのはやはり岸さんだろうなと思いながら読んでいた。

キャリアもあり、理性も分別も備えているはずの笙子が、偶然、成田発パリ行きの飛行機の機上で出会った男にぐいぐいと惹かれていく。最初は男の熱心さに引きずられていた笙子だが、次第に身も心も相手の男にひかれてゆく。その危なっかしさに、読む方もはらはらしながらひきこまれていった。

高齢者同士の、いわゆる〝老いらくの恋〝。題名の「わりなき恋」とは、清少納言の祖父にあたる清原深養父という歌人の詠んだ歌、「心をぞわりなきものとおもひぬる見るものからや恋しかるべく」からとったものらしい。理屈や分別を超えて、どうしようもない恋、苦しくて耐え難い恋という意味のようだ。その題名通り、甘美だが苦しい恋は笙子が75歳になるまで続いた。相手には妻も子供もいるし、笙子も、亡くなった夫との間に娘がひとりいる。お互いの家族への思いは、やがて東日本大震災を思わせる大地震を契機に、新しい展開を迎え、旅立つ男を笙子が駅で見送るシーンで、2人の関係は静かに幕を閉じる。

男の作家が描く、熟年男性の恋を描いた作品は、ヒロインとして登場する女性が男性の身勝手な願望(女性はこうあるべきとかこうあってほしいという)によってつくられたような設定が多く、あまり好きではない。でも、岸さんが書いたこの作品は、老いゆく女性の心身の微妙な変化を同性の目で克明にとらえながら、わりなき恋に身をゆだねる女の哀しさやうれしさをみごとに描ききっていて、素直に共感しながら読むことができた。

そんな小説の余韻がまだ冷めやらないまま、今朝の朝刊を開いたら、人生相談の欄に、〝老いらくの恋〝のとんだ顛末が取り上げられていて、思わず笑ってしまった。夫を亡くした60代の女性が、やはり妻を亡くした60代の男性と持病の治療絵通っていた病院で知り合い、つきあうようになったらしい。ところが、親しくなると、男は毎日女性の家で食事をし、ドライブに行く時も、手作り弁当を希望するようになり、これまで月3万円ですんでいた食費が8万円にもなってしまった。でも、男は一切お金を払おうとはせず、後片づけもしてくれない。何でもおいしいと食べる男の姿が無銭飲食に思えてきた。料理に時間を費やし、労働を提供し、食費ももらえず、何か割に合わないと思うが、今さら費用を出してとも切り出せない。さびしくても一人に戻ろうかと悩んでいるというのである。

「あなたが気の合うお相手を得たことは結構と思いますが、もしかしたら交際中、お金があるふりをなさったのではありませんか。ここは女の慎重さを発揮して、「ないふり」をした方が無難でした。交際中、男性はお金があるふり、女性はお金がないふりをするのが一般的な傾向だといわれています。

女性は長い間、良好な雇用機会に恵まれず、無償の家事労働に従事してきました。貧しくても少しも恥ではありません。現にあなたも、食費の支出増を見てため息をついているではありませんか。「今の食費の負担は少し苦しいから、長続きさせるために、少し負担していただけませんか」と素直にお話になったらいかがでしょう」

こんな回答をした最後に、樋口さんはこう付け加えている。…「無償の愛」に今さらとらわれる必要はありません。言ってみてご縁が切れるなら、それだけの男です」。

元気なシニアが増えて、60代70代の恋や婚活の悩みも増えているようだ。岸恵子さんの「わりなき恋」のようなロマンチックな恋は、現実にはありえない話で、実際には、この人生案内のような、悩み多き関係が多いのだろうなと、おかしかった。、

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投稿: 藍色 | 2015年6月26日 (金) 14時31分

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